西蔵七日  SEVEN DAYS IN TIBET

第五日  ( Day 5 )

この日の行程は、東に480kmの林芝(ニンティー、Linzhi、コンボ地区と伝統的に呼ばれている)へのバス旅行である。行き先に何があるのかまったく予備知識のない、まさにMagical Mystery Tourである。
今日は、中国人20人くらいといっしょに、日野のボロバス(少なくとも15年位前のもの)でのバス旅行となった。ボロバスと言っては申し訳ないが、ランクルはもちろん、同じミニバスにも抜かされる始末。上り坂では息も絶え絶えである。今でも現役で走っていることに対して敬意を払わなければならないのだろう(とにかくアジアでの、日本車への信頼は、仏様への信仰に近いものがある)。

中国人の同乗者は、いろんなツアーの人が混じっているらしかったが、初めての経験で面白かった。中国人の特徴は、まずトランプ好き。眠気がない時は、スーツケースをテーブル代わりにして、飽きもせず、延々とやっている。2番目は、タン吐き。5分おきくらいに窓を開けてタンを吐いている(2名だけだが)。シンガポールでは、この習慣を止めさせるため、タン吐きにS$500の罰金が科せられている。めったに適用されないが、SARSの時は、見せしめに数人つかまった。新聞報道には、口に虫がはいったので、吐いたらつかまったという犯罪者!のコメントが載っていた。一方で、学者風の立派な人もいて、妙に親切な人もいて、やはり中国は多様であることを改めて実感した。

このバス旅行でつらいのは、途中にほとんど何もなく(男性はいいが)トイレが少ないことである。途中しょうがなくて、森の中に駆け込む人もいた。後で調べたら、ここは非公開地区になっていて、たまたま中国人のツアーにはいったため、行くことになったようで、普通ここに行く外国人はいないらしい。確かに、2日間、外国人には、たったの一人にも会わなかった。そういった意味では、見所は少ないが貴重な記録になるかもしれない。単に見所が少ないので、人気がないだけかもしれないが。

ラサをひたすら東へ480km、標高差で1000mを、Tibet-Sichuan Highwayに沿って駆け下りる旅行。とにかくほとんどが川と山である。川(ニャンチェ川(Niyang River))は、聖なる山カイラス山(Kailash、いわゆる須弥山で、四角錐の形をしており、ヒンドゥー教と仏教とボン教の聖地)から、チベットを通って、ガンジス川に合流する聖なる川である。この辺は、まだ上流なので、たぶん山を削り取った成分のせいでエメラルド色をしている。とても美しい。山々は、ロッキーのように岩山という感じではないが、ごつごつしていることに、変わりはない。高さは、5000-6000m級である。とにかくずっとこの風景が続き、途中雪山も顔をのぞかせ、スリリングなドライブ旅行でもあった。



ラサの東45kmにあるガンデン寺への上り口を過ぎて(本当は、林芝(ニンティー)などよりもガンデン寺が見たい!)、最初の見所?は、ソンツェン・ガムポ生誕の地(Birth Place of Sogtsen Gampo )。ただ、門と田舎の村が広がるのみである...たぶんそれが見所なのだろう。山羊を散歩させる老女の姿も印象的であった。
の次は、昼食(とにかく何もない)。昼食がとれる場所も極めて限られるらしく、ほとんどのこの道を通る車がここにとまっている。昼食は、あいかわらずおいしい。トイレが奥にあるが、ただ穴があいているだけである。穴の中で、排泄物が塔のようになっている(すぐ乾燥してしまうからだろう)。他でもそうだが、こちらのトイレはドアすらない。それで、1元(13円)料金をとられた。でもこのような場所で、トイレと昼食を提供してくれるだけでも感謝しなくてはならない。こちらの人はビリヤード好きで、そこらかしこでやっている(賭けているのか?)。ただこの村のビリヤード台では、競技不能だろう。

次の停車地は風光明媚な川が急流になって曲がっているところである。正直言って日本にはもっとすごいところがたくさんあるわいと思って見ていたら、中国人には、すこぶる好評である。水墨画を好む気質か、いつも平地に住んでいるので、単に山と川が珍しいだけか。この辺に来ると、パンダ君の元気があまりない。聞くと、標高が下がってくると頭痛がするのだそうである。低山病!車窓も、家の形が途中から三角屋根の家が増えてきたり、林が見えてきたり、少しづづ変わっているのがわかる。道は、途中崖が崩れて回り道をしたり、道に石がごろごろ転がっているところを、石をよけながら走ったり、結構スリリングである。チベット人の運転手は、流石に慣れているようで、無事故で帰還できて、たいへん感謝している。途中で、事故も見たし。日本と同じで、追い越し時や、出会い頭の事故であった。そういえば、途中で、五体投地している家族も見た。車がどんどん飛ばす舗装道路を尺取虫みたにジョカンに向かっているのであるから、危ない。寝床や、食事はどうしているのだろう。多分途中の村にお世話になっているのだろう。帰りにも会ったが、ほとんど進んでいなかったような気もするのだが...いったい何日間かけて行くつもりなのだろう。

途中コンポギャムダ(工布江達、Gongboyamda)というちょっとした町を抜けると(携帯が通じる数少ない場所である)、次の見所であるパソン・ツォ(八松錯、Basongcuo)に着いた。ここはラサから林芝に行く一本道からしばらく入ったところにあるが、チベット伝説の湖である。何でも、チベットの英雄伝説のケサル王伝のケサル王の魂が宿った聖湖なのだそうである???湖自体、神秘的な感じもするが、日本だったら、ここもどこにでもある湖のような気もする。



湖の中に、ツォゾン島という小島があり、そこにツォスム・ゴムパと呼ばれるお寺があるのである。その島へ、ロープを伝って移動する筏で渡る。これはなかなユニークである。ツォスム・ゴムパは、8世紀にグル・リンポチェが訪れて、ニンマ派のテルトンであるサンギェ・リンパが建てたと言われている。チベット人は、ここから湖を2日かけて1周するのが巡礼コースなのだそうである。小島には、お堂が二つあるが、左がメインである。お釈迦様と守護神が奉られている。この守護神には、頭に髑髏が4-5個ついており、かなりの迫力である。おどろおどろしいという表現がぴったりである。右のお堂(マニ堂=マニ・ラカン)には、巨大な(高さ2m位)のマニ車が納められ、押して回すことができるようになっている(もちろん右回り)。島全体も一周できるようになっており(もちろんこれも右回り)、グルが瞑想した岩や、亡くなった子供を水葬する場所や、マニ石が積まれているマニ塚(マニ・ドプン)など、それなりに見所はある。この湖沿いにリゾートを作る計画もあるようである!!!



いよいよ八一(パーイー)を過ぎて、ニンティー(林芝)に到着である(ほぼ10時間のバスの旅!!)。八一とは変な名前であるが、中国人民解放軍の建軍記念日 ( 8月1日 )からとった名 なのだそうである。さらに聞くと、この町は、まさに中国人民軍の軍事基地なのだそうである。悪く言えば、中国はここからチベットに進軍したのである。地図を見ると、チベット自治区と四川省との境、インドとの国境(国境未確定地域?)にも近く、軍事的に重要な場所であることがわかる。言われて見れば、軍用トラックが、ラサとこの町の間を、列をなして移動する姿も見かけた。また、山間の狭まった所を利用した城壁の跡のようなものも見かけた。



またまた四川の火鍋を食べて(万人に食べられるよう味はまろやかになっている)、ホテルにチェックイン。宿泊ホテルは、郵政大酒店というたぶん中国の郵政省が経営しているホテルで、外見は立派。ただ、ホテルに入ると、中はかなりひどい。バスに砂が入っていて、説明を見ると、水道管が古いので、2-3分水を流してから使ってくださいとある(中国語で書いてあるが、意味はわかった)。窓からは、ピンクの明かりを灯した、置屋が並んでいるのが見える。軍人の町で、結構すさんでいるのかもしれない。町へ出てみると、道は立派だが、何となく無機質な寂しい感じがする。ただ、町をとりまく、山、川はすばらしく、標高も下がったせいか、空気がうまい。商店街に行ってみると、薄暗い中、中国共産党関連のグッズが目立つ。また、頭に白い帽子をかぶった回教(イスラム教)の人も多い。民族的には、チベットと漢人が半々くらいか。少なくとも、観光で来る町ではない。

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